大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(ネ)3171号 判決

控訴人 内山軒造

右訴訟代理人弁護士 植田義昭

被控訴人 安田吉之助

主文

原判決中被控訴人に関する部分を取り消す。

被控訴人は、控訴人に対し、金一六五〇万五五〇〇円及びこれに対する昭和五二年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

事実及び証拠関係は、控訴代理人が当審証人根本平八郎の証言、当審における控訴人本人尋問の結果を援用したほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  控訴人の有限会社安田クレジットに対する債権の存在について

この点に関する当裁判所の判断は、原判決理由一(同五枚目表九行目から同裏五行目まで)と同一であるからこれを引用する。

二  法人格否認の主張について

《証拠省略》を合わせれば、有限会社安田クレジット(以下「訴外会社」という。)は、昭和三二年四月三〇日設立され、新古書籍雑誌の販売・出版、分譲住宅の建築・販売、宅地建物取引業、金融投資貸金業、電話売買・仲介業、保険代理業等を営業目的とし、その資本金額は一〇〇万円であるが、右は実質的には被控訴人の全額出資であること、役員としては、被控訴人が代表取締役であるほか、その息子の安田健一と古くから被控訴人の従業員であった小林貞子が取締役であったが、小林は昭和四七年五月三一日、安田健一は昭和五二年二月一〇日辞任し、それ以後は被控訴人が唯一の役員であること、訴外会社は、設立当初は練馬区にある被控訴人の住居を本店として営業していたが、その後板橋区のわずか数坪の貸事務所を借りて移転し、従業員は三名で、社員総会が開催された事実はうかがえず、おおむね被控訴人の独断専行により経営されていたこと、被控訴人は訴外会社から月給二〇万円の支給を受けていたが、被控訴人の生計には右の他訴外会社の売上金等が使用され、訴外会社の財産と被控訴人の財産とは必ずしも厳密に区別されていなかったこと、被控訴人は、昭和五二年二月家族とともに行方不明となったが、それによって訴外会社の営業は継続できなくなり、訴外会社の財産としては見るべきものは何も残っていないこと(なお、被控訴人は、その頃内山九万の妻で、控訴人の母である内山スエノに対し、訴外会社倒産の事情を説明するとともに「会社も個人の財産(土地建物)も全部投げ出すことにした。」旨書いた手紙を送付している。)、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上認定したところに基づき考えるに、訴外会社は、有限会社の形態をとってはいるが、その法人格は全くの形骸にすぎないもので、その実体は背後に存在する被控訴人個人に外ならないのであるから、訴外会社が控訴人との取引により負担するに至った前記一記載の債務については、被控訴人もまた控訴人に対し、その支払義務を負うべきものである。

三  よって、控訴人の被控訴人に対する本訴請求はすべて認容すべきであるから、これと結論を異にする原判決中被控訴人に関する部分を取り消し、控訴人の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 内藤正久 堂薗守正)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例